日本の伝統、美しい木組みの家は買う物ではなく、作り出されるもの
いま我が家を建ててくださっている町家大工都倉の大工さんの仕事もほんとうに丁寧で、何より、組まれた木はほれぼれする程の美しさです。左官の江原さんの仕事もしかり。土壁の土台となる竹小舞を掻き、藁と混ぜて練られた壁土を熟練の技で丁寧に塗っていく。聞いたところによると日本伝統の技や使う道具は世界でも独特なもので、欧米に呼ばれて行った時も道具や仕事を見て驚かれるそうです。
しかし、そういう世界にも誇れる日本伝統の技術がどんどん失われて行っている現実があります。効率化、大量生産、スピード化、経済発展の過程では仕方のないことだったのかもしれません。私たちが失ってしまったものはあまりにも多かったのではないかとしみじみ感じています。
気づいたら行き着いた日本の昔ながらの家
私たちは試行錯誤の末、気づいたみたら、伝統構法の家に行き着いていました。建築家の林美樹さんに出会わなかったら、在来構法と伝統構法の違いすら知りませんでした。そして、この時代に、それも東京で昔ながらの手刻み、木組み、土壁に真摯に取り組まれている大工さんや左官さんにも出会えなかったと思うと、しみじみ、人との出会いがなんと大切なことだろうと思っています。自分たちが家探しの時に感じたこと、学んだ事が、建築家さん、大工さん、左官さんさんたちとの出会いによってさらに新しい気づきや答えに導かれています。
家づくりについて考えていくうちに、どうしても環境のこと、自然のことなども気になってきて、私たちの国の歴史や環境など、様々なことに興味も広がります。
そして現場に足を運び、大工さんや左官さんたちの丁寧かつ美しい仕事を目にする度に、伝統構法の家にしたことが間違いではなかったことを確信しています。
先日、梅雨明けの強い日差しの日、施主作業として外壁の杉板に保護材塗布をしました。炎天下の作業の後、建築中の土壁の我が家は建物の中に入ればひんやりして涼しく、気持ちのよい空間でした。これなら真夏でもクーラーをがんがんかける必要もなくなるんじゃないかと、都倉棟梁や良治さんとお茶をしながら気持ちのよいひとときを過ごしました。
私たちの手に届く伝統の家
伝統構法の土壁の家というと、茶室があったり、大きな庭があったり、なんだか贅沢な家をイメージしませんか?豊かな資産のある人々のものだという思いが拭えない感じがしますよね。でも、私たちが建てている家は普通のサラリーマンが手に届く範囲のものです。同じクラスの建売よりは少し頑張った感のある程度の金額です。
わたしと主人はいろいろな出会いの中で、どうせお金を使うなら納得のいくところにお金をかけたいと思うようになりました。現代のマンションや建売住宅は設備の充実をアピールする所が多いですが、私たちは取り替えの聞く設備は最低限にしても、家そのものにお金をかけたいと、少し小さくなっても品質の良い建物をと考えました。また、どうせお金をかけるなら、壊して産業廃棄物になってしまう家よりも土に還る家が良いと思い至りました。
私たちがお会いする少し前、林さんと棟梁の都倉さんはなんとかコストダウンして、多くの人々の手に届く範囲の土壁と伝統構法の家を考えようと話されていたそうです。具体的にどんな話だったかは伺っていないのですが、我が家のプランには様々なアイデアやチャレンジが盛り込まれて、私たちもそれを新鮮な気持ちで驚き、楽しんでいます。
完成まであと数ヶ月。家が日に日に出来上がっていく過程を見るのはほんとうに幸せなことです。土地探しからはじめる家造りは確かに時間も手間もかかりますが、それ以上に喜びと得る物が大きいことを実感しています。