季節限定、吉野山の“さくら巻”
毎年さくらを見るとこのお菓子を食べたくなる。友人の実家の、奈良の吉野山のお土産屋さんがお花見のときにだけ販売する知る人ぞ知るお土産です。
“さくら巻”はさくらの季節限定のお餅のようなお菓子です。ほんとに素朴でやさしい味。何度かいただいたのですが、お餅というよりわらび餅に近く、わらび餅よりもしっかりとした食感。葛に近いでしょうか。甘さも強すぎずほんのりと丁度良い頃合いです。その味が忘れられなくて、桜の季節になると無性に食べたくなるのです。
あく巻の製法は、竹皮に包んだもち米をカシ、サクラ、クヌギなどの木から採ったアク汁で煮込むという実に手の込んだユニークなものです。保存食として作られたのが豊臣秀吉の時代にさかのぼると言われています。こちらのお店では、先々代の店主が桜の木(役目を終えた桜の木)の灰を使って作ったのが始まりだそうですが、吉野山でさくらのあく巻はそのお店一軒しか作っていません。ホームページを作って大々的に販売しているわけでもなく、どこかに卸して売ってもらっているわけでもなく、桜でにぎわう季節のみ限定で、友人のお母さんがご家族総出で製造し、吉野山の店で販売するというやり方です。
最近は、全国からの問い合わせがあれば宅急便で対応されているようですが、それでも、食べたいと思ってから手元に届くまでには数日はかかります。簡単には手に入りません。だからこそ、年に一度、この季節には無性に食べたくなる。そこにわざわざ行ってでも食べたくなる。お土産としての価値があるのです。本来のお土産とはこうあってもらいたいですね。
東京でも地方でも、いつでもどこでも食べれるお土産品
かたや、東京にはほとんどの地方のお土産や食べ物が売られています。そこそこのお金を出せば世界中の美味しい食事も堪能できるし、欲しいものも数多くの選択肢の中から選び放題。地方のお土産物すら例外ではありません。たいていのデパートでは全国のお土産品を集めたコーナーがあり、わざわざ旅行をしなくても地方の名産品をいつでも味わうことができます。
先月末で60年の歴史に幕を閉じましたが、大阪梅田にも「アリバイ横丁」と呼ばれた同じような商店街がありました。「アリバイ」と呼ばれる位だから、実際には行っていない旅行に行ったことにしてくれる「アリバイ品」として各地の名産品を売っている便利なお店、という意味合いが込められていたのでしょう。しかし、ここ東京では各地の名産品はもはや「アリバイ」でもなんでもなく、魅力的な商品のひとつとしてお洒落にディスプレイされて売られています。
そういえば、年末年始に実家に帰ると、地方のスーパーでは逆に銀座の○○とか、浅草の○○のすき焼きセットなどが売られている。買い忘れたときには便利だけれど、なんだかそれでいいのかなと。
あとでスーパーに行って、あ、あいつここで買って来たんじゃないか!と思われるのも嫌ですよね。
大辞林で調べてみた。「おみやげ」とは
①旅行先や外出先から家などへ持って帰るその土地の産物。
②人を訪問する際持って行く贈り物。手みやげ。
とあります。でも、東京のデパートで売っている時点で、それは「その土地の産物」ではないので、①には該当しない。かといって②に使っても、行ってもないところの贈り物というのもなんだかなぁという感じがします。
帰省先で「こうして買って帰ってもどうせ東京でも売ってるんだよなぁ。」と思うと、お土産を買うという行為を邪魔されたような気持ちにもなってしまいます。私のような地方出身者が多い東京では、故郷のものがいつでも食べられるという環境はありがたくもあり、ありがた迷惑でもあります。土産がどこでも買えてしまうというのは良いことばかりではなく、マイナス面の方が多いと思うのです。お土産には「わざわざ旅行先で自分を思って選び、買って帰ってくれたんだ。」という思いが込められているからです。
ミシュランの三ツ星
ミシュランの三ツ星レストランの基準は、そのレストランで食べるそれだけのために旅をして行く価値のあるお店かどうかが、三ツ星を与える基準と聞きます。そこまでとは言わないけれど、お土産は旅の想い出に買って帰りたい物であってほしいですね。
まぁ、ごちゃごちゃ理屈を行ってますが、早い話が「お土産はその土地かせめて近隣だけで売って欲しい」。その一言につきます。その方が旅をする楽しみも醍醐味も増えると思いますし、お土産としての値打ちもあがり、結果的に人が呼べたら万々歳じゃないかと思うのです。実際に、そのようにしている頑固な会社もありますので、そんな会社が増えてくれることを願ってます。
と、これを書きながら、さくら巻に加えて食べたいものがでてきました!奈良の当麻寺前でしか売ってない中将餅。あ〜、食べたい!買いに行きたい!この中将餅のことはまたの機会に。