とても短い小さな川
その辺りにすむ人が散歩するとき以外、今は誰も忘れてしまって、車で近くを通っても誰も気づかない幅八間※ほどの小さな川。今ではほとんど水も流れていないこの川は、この川より大きな二つの川のお母さん。江戸の将軍さまが二つの川を造る時、せき止められて短くて小さな川になったんだって。
将軍さまが水をせき止めたために両岸の村は水争いで毎年毎年大騒ぎ。将軍さまの時代が終わり、大きな戦争が終わって川の周りにたくさんの家が建つようになって、水争いは無くなったけど、いつのまにか小さな川はみんなから忘れ去られてしまったんだってさ。
そんな小さな川のほとりに、とっても小さな料理教室がオープン。「なんでそんな忘れ去られた小さな川のほとりに料理教室を作ったの?」って。知りたい?
だって小さな川の岸辺は昔のまんま。自然堤防の上に櫟や椎など大小様々な木々がおおいかぶさってとっても気持ちよくて、緑の葉っぱの下の茶色い土の上をちょろちょろ駆けっこするのが僕大好きなんだもん。
僕のことを大切にしてくれるこのお家のお父さんとお母さん、この小さな川と岸辺の森を見たとたん、このほとりに家を建てることにしたんだって。僕が喜ぶからかなぁ?
- 【幅八間】古くからある日本の家を造るときの単位が間。畳一枚の長い辺が基準です。 一間は約1.8m、つまり川の幅は約15mです。伝統的に日本の家を建てるとき柱と柱の間は一間を基準に考えます。
古民家の星さん
川岸の遊歩道をお散歩してると、一段と緑の濃い森に入ります。森の中には昔のお百姓さんの家のような大きな古い家、お父さんとお母さんはこの家を『星さんの家』って呼んでます。小さな川の岸辺にあった田んぼや畑でお米や野菜を作っていた庄屋さんの家と決めつけています。
だって、大きな門の前の畑でおばあちゃんが今もお野菜を作ってるからって、お父さん。お父さんは思い込みで勝手に判断する傾向があるようですが、まぁだいたい正解っているようなので僕はお父さんのことをちょっと尊敬しています。
この間も僕が何度も散歩の途中で吐いたら、白い泡を見て「お腹空き過ぎて胃液がでてるのかも。お芋あげたら楽になるよ」ってお母さんに。そしたらホントに僕は元気になったんだ。お父さんの思い込みは結構あたるでしょ。だから星さんの家はきっと大庄屋さんだったんだと思うよ。今度おばあちゃんに聞いてみようかなってお父さん。知らない人に声かけるの苦手なくせにぃ!
星さんの家はとっても古い家のようです。お父さんは剣客商売の小兵衛さんの家みたいだって、川の側だし、森に囲まれてるし、昔は船着き場もあったかもって、また勝手に思い込んでます。星さんや小兵衛さんの家のように、料理教室の小さい家は「古民家みたいに作るぞぉ!」ってお父さんが言ってた。
二十二世紀の古民家建築プロジェクト
だから家造りは建築家の林さん※にお願いしたんだって……。ぼく美樹さん大好き!お家の相談のとき、遊んでって言ったら、いつもやさしくなでなでしてくれるもん!でもさぁ、新しい家なのになんで古民家なの?って僕は思います。
みなさんだって変だって思うでしょ。古い民家なんてさ!でもお父さん、「二十二世紀にはこの家も古民家になる!大切に誰かが引き継いで住みたいって家にするんだぁ!」って。それで、この家は木と竹と土で家を造ったらしいよ。
昔のおうちみたいに……。大工の棟梁さんがお弟子さんたちと木を刻んで柱を立てて、屋根を葺いて、家を建ててくれたんだって。他にもたくさんの人に手伝ってもらって、土壁の家にしたんだってさ。小舞編みっていうのをみんなで編んで、壁土を塗ったんだって。
僕、この家も大好き!新しい古民家のお家の小さなキッチン。お母さんは何の料理しようかワクワクしてるんだって。今まで地下室のおうちだったり、ビルの中のおうちだったから、太陽と風にお願いする料理が出来なかったから、『風仕事』するのが楽しみなんだって。
『風仕事』ってのは、椎茸干したり、梅を干して梅干し作ったり、お魚の干物も作ったりするんだって。僕、お魚も大好きぃ!美味しいの作って欲しいなぁ。でも初めて作るからこれから勉強するんだって。風仕事うまくいくといいね……。
- 基本、このお話しはフィクションです。実在する登場人物は、お仕事やお考えを紹介したくて創造上の人物としてお名前をお借りしています。今回登場の林美樹さんはストゥディオ・プラナという建築事務所の代表です。二十二世紀には古民家になるはずの家をたくさん設計されています。 『くさる家に住む』というご本の著者のお一人でもあります。
『キッチンまんまる』
おいしい料理は出汁が大事なんだって。お母さんはそれを伝えたくて料理教室を始めたんだ。前に行ってた教会で子どもたちがご飯を少ししか食べないので、お母さんなんだかかわいそうに思ったんだって。それでお父さんと相談して、お野菜で美味しいスープの出汁をとってカレーを作ったり、シチューを作ったり、きちんとお出汁を取った料理をお昼に出したんだって。
するとね、子どもたちがたくさんご飯を食べてくれるようになって、お母さんとってもうれしくなったんだって。それで前のお家で子どものための料理教室を始めることにしたんだって。鰹節と昆布できちんと出汁をとることから子どもたちと研究。子どもたちは本物が分かることに驚いたんだってさ。
来月からここでも料理教室スタートするってさ!最初はやっぱりみんなの好きなシチュー?本物はホワイトソースから作るんだよね。いよいよ、とっても短くて小さな川、そのほとりの料理教室『キッチンまんまる』が始まります。どんな料理がでてくるか楽しみですね。お母さん。頑張って!子どもたち来てくれるといいね!
あ、『まんまる』は僕の名前から付けられました。『まる』です。よろしくね!
- 子どもの舌は敏感で、丁寧な材料で作った美味しいものは一杯お代わりしてくれます。それを伝えたくて始めたキッチンまんまるですが、現在は休止中。もっと広く伝えたくて、YouTube あさりおんチャンネルでレシピ映像を公開しています。お母さんたちに見てもらいたい、基本的でわかりやすいレシピを公開中です。