「増えるは、増える」
わかめ。ではなく、昭和を代表する小鳥の十姉妹(じゅうしまつ)のこと。
インコや文鳥のような華やかさはなく、どちらかというと地味キャラだが、とにかく子育てがうまく、体が丈夫で飼いやすいので昭和の子どもたちの家によく飼われていた。私も小学生の頃、クラスメートから3羽もらって来て飼い始めた。何故つがいの2羽ではなく3羽だったのか未だに謎だ。おそらく何羽も増えてしまって、つがいよりも1羽多めにあげよう、ということになったのかもしれない。
小鳥を飼うのははじめてだったので、わくわくしながら父といっしょに近所の小鳥屋さんに必要なものを買いに行った。その3羽はしばらくして卵をうみ、卵がひなになり、気がついたら10羽は軽く超えていた。小鳥屋のおじさんに話をすると「じゃぁ、餌と交換してあげようか?」と言ってくれた。
「えっ?いいんですか?」
「いいよ、じゃ、1羽につきえさ1袋ね。」
ということですんなりと取引が成立した。その後、ヒナが増える度に私はせっせとヒナを持って小鳥屋に走ったので、爆発的な増加に歯止めをかけることができた。第一、こちらは餌をもらえるし、小鳥屋さんは引き取ったヒナを売れるし、お互いに都合がいいのだった。ある時、いつものようにヒナを持って行くと、
「たまにはセキセイインコと取り替えてあげようか?」
とおじさんが言った。この提案はかなり心ときめいた。十姉妹は大好きだったし満足していたけど、手乗りにはなりにくいタイプなので、いつもなにがしかの寂しさを感じていた。だからインコや文鳥のように手乗りにできる存在はちょっとうらやましく思っていた。
私は思わず叫んだ。
「えっ!!ほんとですか!」
「ほんとだよ。じゃ、十姉妹3羽にインコ1羽ね。」
といって、おじさんは店内のインコが入っているカゴからミドリと黄色の柄のインコを持って来てくれた。インコを十姉妹のカゴに入れるわけにもいかないので、ついでにインコ用のカゴを買って、家に帰った。思い返せば、この小鳥屋のおじさんはけっこう商売がうまかったと思う。
しかし、その後、十姉妹たちに災難がふりかかった。
ある時、いつものように昼間に軒先につるしていたら、夕方、もぬけのカラになっていた。おそらく、当時、庭にたびたび出没していた蛇に食べられてしまったのだろう。ほんとうにショックで、蛇が憎らしくてたまらなかった。
インコもしばらくして同じような災難にあった。夜になったから家にいれてあげようと、玄関先に置いて、他の用事にその場を離れた。しばらくたってもどってみたら、今度はインコを飲んだ蛇がかごから抜けられなくなっていた。
「ぎゃ~!!お、お母さん!!」
と叫ぶしかなかった。
母は蛇が苦手だったので、近所に住んでいる祖母を呼びに行き、近くの川にその蛇を捨ててもらった。飲まれたインコは助けてやることができなかった。いまでも、その時の光景はしっかり脳裏にやきついている。あの場を離れずに、すぐに家に入れてやっていれば、こんなことにはならなかったのに。
そして、我が家には十姉妹もインコも一羽もいなくなってしまった。
こんなことなら、餌と交換などせず、増やしつづけていたらよかったかと子供心にいつまでも後悔しつづけた。増えるは、増えるは十姉妹。でも、それにも限りがある、ということか。
命を粗末にした結果の苦い思い出である。
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