美しい手仕事の造作
この記事の写真のように、伝統構法の現場ではいまも大工さんたちの手仕事、手刻みで窓の枠や建具の鴨居や敷居などの造作がすすめられています。現場で採寸し、図面を確認して、手刻みで一ヶ所一ヶ所、大工さんたちが造り上げて行きます。
東京近郊で売られている住宅の建築現場では、プレカットですべての部材がはめ込めば良い形で運ばれてくるそうです。
しかし、町家大工都倉では職人さんの手で、ひとつ一つ現場で作られて行きます。これは、棟梁の都倉さんが、実際の建物を大工の手で造り続けなければ、若い大工の修行にならない。プレカット機で作ればコスト削減かもしれないが、大工の腕が育たないという思いがあるようです。手仕事でなければ本当に良い建物はできないという思いがあるのです。
いまは精度の良いプレカットも可能なのかもしれませんが、自然の木を一本一本扱う伝統の家造りには、木に触り続ける職人の経験がこれからも大切なのです。
実際、仕事を拝見していると、こりゃ職人の腕で作らないとできないなぁってすばらしい仕事を見ることができます。現場に行くのが楽しみなのです。
刃物が守る日本の技術
建物内部の造作や、外壁の工事が始まって、鑿や鉋をよく使う作業に入った頃になり気がついたのですが、お昼休みを少し早めに切り上げて良治さんや棟梁が、鑿や鉋の刃を研ぐのです。髪の毛も入り込まないほどの美しい接合部の造作を仕上げるためには刃物の手入れが大切なのですね。
我が家のいまの大家さんは精密機械を作っている熟練の技術者です。若い頃、その方に聞いたのですが、明治になって一気に日本の工業が発達できたのは、刀など刃物の技術があったからだそうです。
当時の欧米では精密部品を削ったり、ベアリングに使われるしっかりした特殊鋼はスウェーデンの独占技術でした。格段に技術が高く市場を独占していたそうです。しかし、江戸時代の刀鍛冶の技術はそれと同等かそれ以上の物をすでに持っていたため、明治維新と同時に日本の工業化は一気に進んで行ったのです。日本刀の鋼はスウェーデン鋼と競えたのです。江戸時代の技術って、学校で習ったより遥かに進んでいた事だらけだったのです。それはまたいずれ書きます。
話は続きますが、現代の不況下の日本、精密機械の分野でも、MCと言って、コンピューター制御で職人がいなくてもネジや部品を作ることができる機械ができ、発達して、もう職人は要らないと思っている大企業の経営者も多いらしいです。最近では3Dプリンターができて、金型職人が不要と考えている報道もありました。
しかし、高精度で大量に複雑な物を作ることは、いまでも人間が設定する自動機に勝てないそうです。また、仮に勝てる物ができても、精密に部品を削る刃物を研いだり整える仕事には、これからも人間の技が必要で、そういった技を経験する仕事を無くしてはならないと話されていました。3Dプリンターも同じで、金型職人の技術はなくしてはならない物だそうです。
棟梁の都倉さんが手刻みにこだわって若いお弟子たちの技術を磨こうとしているのと同じですね。
工業も建築も日本の技を支えるためには、手仕事を無くしてはならないのです。そして、それらにとって大切な技術が刃物を研ぐ技だということも面白いですね。日本刀、日本の伝統技術がいまも日本の伝統と工業、経済を支えているのです。
プレカット機やMC機、3Dプリンターの精度や技術を高めるにしても、若い技術を持った大工さんや技術者たちを育てることが大切なのです。日本から職人を無くしてはダメなのです。
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